フットボールの犬 宇都宮徹壱

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help リーダーに追加 RSS 第66回 オーストリアでの捲土重来

<<   作成日時 : 2007/08/31 14:41   >>

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 早いもので、アジアカップから帰国して1カ月が経過した。ちょうど東南アジアにいたときに発生した、タリバンによる韓国人人質事件は、2名の犠牲者を出しながらも、ぎりぎりの交渉の末に人質全員が解放。横綱朝青龍は、すったもんだの挙句にモンゴルに帰国(今回の一件については、横綱当人、彼をサッカーに誘った人々、相撲界、そしてメディアの姿勢に呆れました)。そしてファイナルの日に衆議院選挙で当選した横峯パパは……だんだん話が下世話になってくるので、以下自粛。いずれにしても、この夏の異常な暑さと相まって、ダラダラ感いっぱいの1カ月を象徴するかのような事件が相次ぎ、アジアカップはすっかり遠い過去の出来事となってしまった。

 そんな中、われらが日本代表を巡る状況はどうだったか。

 アジアカップ4位という結果は、いくら指揮官が「悪くない順位」と強弁したところで、やはり失望感漂うものであった。各専門誌では大会総括が行われ、オシムのチーム作りや采配に対する疑念の声もちらほらと聞かれるようになった。一方で、これまでの改革を継続すべし、という意見も依然根強く、現時点で解任論を主張しているのは、ごく少数派である。昨年の失意のワールドカップ以降、高まる一方であったオシムへの期待感は、今回のアジアカップを経て、ようやく正常な議論ができる状態にまで落ち着いた。この間、紙面で、ネットで、そして飲み屋で、今後の日本代表の方向性について様々な議論がなされていたが、現在の状況はある意味、健全であるといえよう。

 その後、カメルーン代表を招いて行われた8月22日のテストマッチでは、闘莉王が復帰し、さらに大久保嘉人、山瀬功治、田中達也といったJで活躍する攻撃陣も試されるなど、話題に事欠かないゲームとなった。結果は2-0の勝利。相手のコンディションがベストでなかったことを差し引いても、それなりに満足できる内容であった。

 もっとも同日、U-22代表の最終予選初戦があり、さらにU-17ワールドカップのナイジェリア戦もあったことから(ただし、スポーツ紙の一面を飾ったのは高校野球の劇的な決勝戦だった)、A代表の話題は想像以上に地味なものとなってしまったのも事実。オシム率いる日本代表の第2幕は、何ともひっそりとしたものであった。

 本格的な第2幕の幕開けは、むしろ9月上旬に行われるオーストリア遠征に求めるべきなのかもしれない。本稿執筆時点でメンバーは発表されていないが、アジアカップでフルスタメンだった中村俊輔と高原直泰の招集は確実。これに中田浩司、稲本潤一、そしてフランスで幸先のよいシーズン初ゴールを挙げた松井大輔が加わる可能性は極めて高い。

 かねてよりオシムが松井の動向に注目していたのは有名な話。どのポジションで、誰とコンビを組むかによって、指揮官が彼に何を期待しているか、そのアウトラインは自ずと見えてくるはずだ。また、久々に代表での松井のプレーが見られるのは、ファンとしても純粋にうれしい。昨年のワールドカップ落選以降、挫折と故障の苦しみを乗り越えて一段と成長した松井の姿は、ぜひ見てみたいものである。

 一方でオシムにとっても、今回の遠征は、アジアカップからの捲土重来の機会ととらえているはずだ。何といってもオーストリアは、オシムにとっては第2の故郷。そして会場のクラーゲンフルトは、自宅のあるグラーツに近く、列車で2時間半ほどの距離だ。ついでにいえば、旧ユーゴスラビアのスロベニアとの国境は、目と鼻の先。スロベニアやクロアチアからの移民も少なからず住んでいる。オーストリアで得た名声、そして旧ユーゴでの実績を考えれば、現地での注目度はわれわれの想像以上に高まっていることだろう。こうした状況は、オシムにとって、よい意味でのプレッシャーとなるのは違いない。

 クラーゲンフルトでのゲームは、7日がオーストリア戦、そして11日がスイス戦。いずれのチームも来年のユーロ2008に向けて、モチベーションは極めて高い。アウェーの地で、欧州の中堅国と真剣勝負ができるのは、またとない貴重な経験だ。7月時点でのFIFAランキングによれば、オーストリアは84位、スイスは45位、そして日本は41位。さほど強すぎず、さりとて弱すぎず、いずれも質の高いゲームが期待できそうだ。

 ところで日本代表とは別に、今回の遠征には個人的に楽しみにしていることがある。それは、8日と12日に行われるユーロの予選だ。このところのユーロ高で、すっかり欧州での取材がご無沙汰となってしまっただけに、この機会を逃さない手はない。同業者の間では、8日はイタリア対フランスが、そして12日はチェコ対アイルランドが注目カードのようだ。もちろん私は、それらの人気カードには見向きもしない。オーストリアといえば、バルカンへの玄関口。さまざまな文化のグラデーションを眺めながら、のんびり列車に揺られてみるのも悪くないだろう。

 おりしも、旧ユーゴ勢は悪くない位置に付けている。グループAのセルビアは、先日ベルギーに敗れて4位に交代したが(挽回は厳しいか?)、グループCのボスニア・ヘルツェゴビナは同率2位、そしてグループEのクロアチアはイングランドやロシアを押しのけて現在首位である。カードを見ると、8日がクロアチア対エストニア(@ザグレブ)、12日がボスニア対モルドバ(@サラエボ)。おお、どちらも私好みの渋いカードではないか!

 そんなわけで、そろそろ荷造りを始めることにしたい。


photo:066  メンバー発表会見でのオシム…東京 2007


宇都宮徹壱/Tetsuichi Utsunomiya
1966年、東京都出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。誰にも顧みられない鄙びたスタジアムと、当地で飲む酒をこよなく愛する。著書に『幻のサッカー王国』『サポーター新世紀』(いずれも勁草書房)『ディナモ・フットボール』(みすず書房)がある。

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