|
今年最後の代表戦(対エジプト戦)が行われた大阪には、東京からではなく、大分から駆けつけた。特急ソニックと新幹線のぞみを使って、およそ5時間の行程で何とか前日会見にたどり着く。日焼けした私の顔を見て、尊敬する業界の重鎮から「どこの国に行っていたの?」と聞かれたので「大分で全社を取材していました」と答えると、苦笑交じりに「君も物好きだね」。あなたに言われたかないです、後藤健生さん。 「全社」とは、全国社会人サッカー選手権大会の略である。今年で43回目を迎える伝統あるアマチュアの大会だ。第14回大会からは、次の年に開催される国体のサッカー競技リハーサル大会として位置づけられるようになり、08年の「チャレンジ! おおいた国体」の開催地である大分が、今大会の会場に選ばれた。 それにしても、何ゆえ、このようなアマチュアの大会を取材する気になったのか。それはもちろん、競技レベル云々を超越した部分で、私はこの大会のありように注目したからである。自称「カップ戦マニア」の私にとって(その昔、バルト3国が3日間で雌雄を決するバルティック・カップを取材したこともある)、この全社は、日本の数あるカップ戦の中でも極めてユニーク、というより「変」なのである。その「変」な部分がどうにも気になって、今回大分まで馳せ参じた次第である。 そもそもわが国には、山の斜面から転げ落ちる大神木に危険を顧みずに乗っかってみたり(諏訪大社御柱祭)、あるいは2本の宝木(しんぎ)をめぐって裸の男たちが争奪戦を繰り広げてみたり(西大寺裸祭り)、さまざまな奇祭が今も残っている。この全社などは、さしずめ「奇杯(奇妙なカップ戦)」の最たるものだ。以下、その理由をつづりながら、この知られざるカップ戦の奇妙さについて紹介することにしたい。 まず特筆すべきが、参加32チームが、5日間連続でトーナメントを行うという、スケジュールのハードさである。1週間で3試合をプレーすることの厳しさを考えるなら、5日間連続がフィジカル的にどれだけハードであるか、推して知るべし。もっとも、そうした選手の疲労を勘案してか、この大会では特別に40分ハーフで行われるのだが、それでもカップ戦だから引き分けがない。80分で決着がつかなければ、10分ハーフの延長戦が行われ、さらにはPK戦まである。高校生の大会でも、ここまで無茶はしないだろう。もっとも、こうしたレギュレーションがまかり通るのは、働きながらサッカーをする選手を長期間拘束できないという、社会人サッカーならではの事情があることはいうまでもない。 上記と関連して、もともと全社が「見せる大会ではない」ことは強調しておく必要があるだろう。この大会は「プレ国体」の色合いが強いため、お客さんよりも、むしろ運営サイドの都合が優先される。したがって、平日の11時キックオフという試合がまかり通ってしまうのである。チームによっては、そこそこの規模のサポーターからの声援が期待できるのだが(V・ファーレン長崎、ツエーゲン金沢、ニューウェーブ北九州あたりがそうだ)、企業チーム同士の平日の対戦となると、選手たちのコーチングの声ばかりが聞こえる、実にのどかな試合風景となることもしばしばだ。とはいえ、古きよき全社を知るマニアから言わせると「これが本来あるべき全社の姿」ということになるらしい。 もうひとつ付け加えるならば、参加32チームのモチベーションが、まるでバラバラなのも、この大会の奇妙さを際立たせている。 最もモチベーションが高いのは、各地域リーグの代表になれなかった、将来的なJ参入を目指すチームである。この全社に優勝、あるいはそれに準じた成績を挙げると、11月下旬から始まるJFLへの登竜門、全国地域リーグ決勝大会に出場できるからだ(いわゆる「全社枠」)。今大会でいえば、ツエーゲン金沢(北信越リーグ4位)、FC Mi-OびわこKusatsu(関西リーグ2位)、そしてV・ファーレン長崎(九州リーグ暫定3位)などが、これに該当し、いずれも死に物狂いでタイトルを獲りに来ていた。 逆に、すでに全国への切符を手にしている「上を目指す」チーム――松本山雅(北信越リーグ1位)、町田ゼルビア(関東リーグ1位)、バンディオンセ神戸(関西リーグ1位)などは、いささか物見遊山モード。全国のレベルを体感しつつ、手の内はあまり見せないように、そして選手が怪我をしないように気配りをしながら、ころあいを見計らって大会から消えてゆく。その一方で、やっかいなライバルが「全社枠」で“敗者復活”する前に、ガチでつぶしにかかろうとするチームもあったりするのだが、それでも自身の優勝は二の次、三の次。照準はあくまでも、地域リーグ決勝大会に向いているのである。 だが、この大会に臨む大部分のチームは、純然たるアマチュアクラブ。賞金も出ない全社を勝ち進んだ彼らに与えられるのは、名誉のみである。しかも大会規定により、遠征や宿泊の費用はすべて自己負担。5日間ぶっ通しで戦い続けるには、かなりの負担を強いられるのは間違いない。実際、征費用を浮かすべく最低限のメンバーしか集められなかったチームもあれば、どうしても出勤があるために月曜日にごっそりメンバーが抜けるチームもあった。それでも勝ち進んでしまうチームは、どんどん出費がかさんでいくので、まさに“体力勝負”となる。「上を目指すチーム」とは目的こそ違えど、彼らにとっても、この大会が我慢比べであることに変わりはない。 大会期間中の悲喜こもごもについては、別の機会に譲ることにするが(ちなみに優勝はFC Mi-Oだった)、今回の取材を通して、はっきり認識したことがある。それは「全社枠」を熱望するクラブの数が急増したことで、かつては純然たる国体のプレ大会、あるいはアマチュアのカップ戦でしかなかった全社が、摩訶不思議な熱気と魅力を帯びた立派な「奇杯」になっていたことである。初めて全社を見た者は、さながら御柱祭か裸祭りでも見ているような強烈なインパクトを覚えることだろう(って、ちょっと大げさだな)。 多くの金銭的・精神的・肉体的負担をクラブや選手に与えながらも、ある者は名誉のために、そしてある者はJFLへの挑戦権を得るために、時に死に物狂いで、時に空気を読みながら戦う、5日間ぶっ通しのトーナメント。さまざまな矛盾や問題を孕みつつも、アマチュアサッカー界に生きる人々の野心と矜持をかきたてながら、これからも全社はその歴史を重ねてゆくはずだ。 photo:068 キックオフ直前の静寂…大分 2007 宇都宮徹壱/Tetsuichi Utsunomiya 1966年、東京都出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。誰にも顧みられない鄙びたスタジアムと、当地で飲む酒をこよなく愛する。著書に『幻のサッカー王国』『サポーター新世紀』(いずれも勁草書房)『ディナモ・フットボール』(みすず書房)がある。 |
| << 前記事(2007/10/04) | トップへ | 後記事(2007/12/08)>> |
| << 前記事(2007/10/04) | トップへ | 後記事(2007/12/08)>> |