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先週の日曜日からインドでAFCユース選手権が開幕した。既報のとおり、日本は初戦の北朝鮮戦に2-0、続くタジキスタン戦に4-0と連勝。裏の試合でイランが北朝鮮に0-5という信じ難いスコアで敗れたため、まだグループリーグ突破は決まっていない。そんなわけで、今日(11月2日)のイラン戦は、要注目である。 さて、今大会の会場に選ばれたのは、インド有数のサッカーどころとして有名な東部のコルカタ、そしてIT産業の中心地として知られる南部バンガロールで、それぞれ2会場ずつ、計4会場である。日本が組み込まれたグループCの会場はバンガロール。いうまでもなく、10月11日に行われたアジアカップ予選、インド対日本の開催地でもあった。ところが、A代表の試合とAFCユースまでは微妙に時期が離れていたために、同業者の何人かは、いったん帰国してからまた同じバンガロールに向かうことを余儀なくされている。この日程、もうちょっと何とかならなかったのだろうか。 少なくとも私は、一度訪れた国や土地について、当分の間は再訪したくないという思いが強い。旅先の風景が日常化してしまうことが、どうにも我慢ならないからだ。それがインドのような魅力的な国であれば、なおさらである。 深夜、バンガロールでの録画映像を横目で見ながら原稿を書いていると、ふいに現地の風景が脳裏で像を結ぶ。私がインドについて思い出すとき、まず思い浮かぶのが犬たちの姿だ。かつて訪れたコルカタでは、人も犬も同じように道端に寝転んでいてびっくりしたものだが、しばらくすると、それがごく自然な風景に思えてしまうから不思議だ。 そんなインドの犬たちは「インド犬」と命名したくなるくらい、ほとんど同じような姿形をしているように見える。大きさは日本の柴犬と秋田犬の間くらい。やせていて毛並みが悪く、全体的に黄色がかった色をしている。耳と鼻が尖っているが、しかし瞳はどこかやさしげだ。同じ野犬でも、ルーマニアはブカレストの裏道を徘徊する犬たちは、何とも底意地の悪い目つきで、しかも群れをなしてスキあらば人間に襲い掛かろうとするので、まったくもって油断ならない存在であった。それに比べるとインド犬は、身なりこそ汚らしいものの、決して人間に敵対することなく、さりとて媚びることもなく、きちんと分をわきまえながら共生している。「フットボールの犬」を自称する私は、そんなインド犬のたたずまいには妙に感心したものである。 ところで「インド」で「犬」とくれば、すぐさま思い出されるのが、インド戦でピッチに乱入してきた犬であろう。ちょうど彼(彼女?)が登場したのは後半ロスタイム。2-0という、何とも不本意なスコアで終わりそうな気だるい空気を切り裂くかのように、ヒョコヒョコと現れて、何ともユル〜い笑いを誘発させてくれた。記者席にいたわれわれはもとより、テレビ観戦していた多くの日本のファンにとっても、あのインド犬の雄姿には強烈なインパクトと脱力感を覚えたことだろう。 だが帰国後、くだんのインド犬について、ネット上で妙な噂が広まっていることを知って、いささか驚いてしまった。試合前日に、あの犬が撮影されていた、というのである(本連載の第33回参照 http://sports.biglobe.ne.jp/soccerclick/essay/essay008.html)。どこかで見た写真だなと思ったら、何と、かつて私が撮影したものではないか! この写真の犬は、実のところ、バンガロールのピッチに出現した犬ではない。今から2年前、コルカタで撮影されたものだからだ。撮った本人が言うのだから間違いない(大体、スタジアムの看板に「KOLKATA」と書かれてあるではないか)。もちろん、決して可能性がゼロとは言わないが、2年前に1600キロ(およそ旭川から鹿児島くらい)も離れた場所で撮影された犬が、バンガロールに出現したとは常識的に考えにくい話だ。それに前述のとおり、インドの犬は大体において、こういう姿形をしているのである。 要するに「インド・スタジアム・犬」という三題噺が、2年という時間と1600キロという距離を超越して、ネット上というバーチャル空間で連結し、図らずも「時空を駆ける犬」を生み出した――というのが真相であろう。せっかくネット上で盛り上がった話をぶち壊すようで恐縮だが、やはり撮影者としては誤った情報をキチンと正すべきと心得る。 最後に、話を強引にAFCユース選手権に戻すことにしたい。 2勝してもなお、グループリーグ突破の決まらない日本だが、あと2つ勝って準決勝に進めば、7大会連続となるワールドユース(=U-20ワールドカップ)出場が決まる。準決勝の舞台は、バンガロールから1600キロ離れた、コルカタのソルトレイクシティ・スタジアム。そう、私が2年前に撮影した犬が寝そべっていた、まさにあのスタジアムである。われらが吉田ジャパンには、ぜひともバンガロールを飛び出してコルカタまで辿りついてほしい。いや、大丈夫。コースは逆だが、あのインド犬にもできたのだ。きっと彼らならコルカタを、そしてさらに向こう側にある「カナダ」を目指して、やってくれるだろう。 photo:058 ピッチに迷い込んだ犬…バンガロール 2006 宇都宮徹壱/Tetsuichi Utsunomiya 1966年、東京都出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。誰にも顧みられない鄙びたスタジアムと、当地で飲む酒をこよなく愛する。著書に『幻のサッカー王国』『サポーター新世紀』(いずれも勁草書房)『ディナモ・フットボール』(みすず書房)がある。 |
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