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「今後は親善試合を含めて、なるべく若い世代のプレーヤーにチャンスを与える機会があると思う。予告しておこう」 敵地サヌアで行われたアジアカップ予選、対イエメン戦(1-0で日本が勝利)後の会見。オシムは記者たちに対し、このような予告をしていた。 あれから1週間が過ぎたが、Jリーグ再開に合わせて、オシムも精力的な視察を続けているようだ。すでに日本は来年のアジアカップ出場を決めているため、今年残された3試合は、若い世代の選手たちの見極めにフル活用することができる。 次の代表戦は、10月4日に横浜で行われるガーナとの親善試合。先のイエメン戦で、U-19代表の梅崎司がA代表デビューを果たしたように、次の試合でもオシムが新たなサプライズを見せてくれるのは、ほぼ間違いないだろう。 オシムが日本代表監督に就任以来、ことあるごとに改革を断行し、周囲の雑音には馬耳東風で2010年に向けたチーム作りを進めていることについては、論を俟たない。そして彼のチーム作りについては、会見における示唆に富んだコメントから、かなり類推することも可能だ(時に思い切りはぐらかされることもあるけれど)。そこで、最近の彼の言葉で気になっているのが「ブラジル」である。すでにお気づきの方もいらっしゃると思うが、先の中東遠征でのオシムの会見には「ブラジル」についての言及が非常に多かった。 「サウジアラビアとはブラジルと対戦するような気持ちで戦うつもりだ」(サウジ戦前日会見) 「もし相手がブラジルだったら、ひとつの試合に負けたということで、なぜ負けたかについて延々と話してもいいだろう。しかし相手はブラジルではない」(サウジ戦後会見) 「例えばブラジルを例に考えてみよう。3人のMFが非常に攻撃が優れている。カカ、ロナウジーニョ、ジュニーニョ。ただし(ワールドカップでの)フランス戦ではどうだったか。(中略)特に守備がしっかりした相手では、ブラジルであっても勝つのは難しいということだ」(イエメン戦後会見) なぜ、こんなにオシムは「ブラジル」について頻繁に言及するのだろう。ブラジルの名前を出したほうが、日本人には理解しやすいと考えたからだろうか(意外とこの人、日本の記者のレベルに合わせて話をしてくれる傾向がある)。それとも、バルカン人特有の「ブラジル・フチバル」へのリスペクトゆえであろうか。このとき私は、素直に後者をその理由に考えていた。しかし、その後、同業者と話をする機会があって、どうやらその考えを改めなければならないのではないか、と考えるようになった次第である。 旧ユーゴスラビアのフットボールが「東欧のブラジル」という枕詞で語られていたのは、さほど昔のことではない。確かに今回のワールドカップでは、セルビア・モンテネグロ(当時)もクロアチアも1次リーグで敗退している。それに今大会においては、セルビア・モンテネグロは「らしくない」守備的組織的フットボールで予選を突破したものの本大会で自滅。クロアチアについても、スルナやプルショといたタレントを擁しながらも小粒感を覆すことができず、結局はスケールの小さいチームのまま大会を去っていった。 それでも90年大会の旧ユーゴ代表を見れば、個々の選手がいかに奔放でスキルフルな「ブラジル的であった」か、容易に理解できよう(言うまでもなく、当時の監督はオシムだ)。実際、この地域の人々は民族や宗教に関係なく、ブラジルのフチバルに底知れぬ愛とリスペクトの念を決して隠そうとしない。だからこそ、オシムもまた「ブラジルへのリスペクト」から、何度も王国を引き合いに出しているのではないかと考えたわけである。 ところが、私が尊敬する先輩同業者は、こう反論する。 「オシムがいう『ブラジル』って、実は前任者へのアンチテーゼじゃないかなあ」 なるほど、そういう見方もあったか! 考えてみれば、オシムの選手選考にしても、練習のスタイルにしても、協会やJクラブとの接し方にしても、そのいずれもが「ジーコへのアンチテーゼ」であった。もちろん、ジーコが代表監督だった時代には、この名伯楽は「素人監督」を揶揄する発言は神経質なまでに控えている。しかし、後任監督となった今となっては、誰に遠慮することなく大胆な改革を断行し続けている。となると、彼にとっての「ブラジル」とは、実は日本代表を「日本化」する上で、実は「最大のアンチテーゼ」と捉えているのかもしれない。 この仮説を立証する上で注目されるのが、今後の三都主の扱いである。 前任者が最も重用し、ある意味「ジーコ・ジャパンの象徴」でもあった三都主。今のところ、オシムが指揮する4試合で、彼とGK川口だけが「前政権」から続いて連続出場を果たしている。だが、背番号「3」で臨んで2ゴールを挙げた、初戦のトリニダード・トバゴ戦を除けば、その後の3試合で、どれだけ指揮官を満足させるようなプレーを見せてくれただろうか。「考えて走る」わけでも「水を運ぶ」わけでもない三都主に、果たしてオシムは何を求めているのだろう。もしかしたら「ジーコへのアンチテーゼ」として、敢えて彼をフルで使っていたのではないだろうか……そんな疑念さえ、決して否定することはできないくらい、オシムの日本代表は謎めいている。 果たしてオシムは「ブラジル」をどう見ているのだろうか。 「今はどんなに美しいプレーをしたかではなく、何勝したか、それが求められる」と語るように、やはり「王国」をリスペクトしながらも、リアリスティックに否定するのだろうか。その答えは、今後の三都主の扱いに集約されるように思えてならない。 10月初旬には、次の代表のメンバーが発表されることだろう。そのリストに、三都主の名前があるかないか――私の最大の関心事が、まさに「そこにある」といっても、決して過言ではないのである。 photo:057 イエメン戦後の会見にて…サヌア 2006 宇都宮徹壱/Tetsuichi Utsunomiya 1966年、東京都出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。誰にも顧みられない鄙びたスタジアムと、当地で飲む酒をこよなく愛する。著書に『幻のサッカー王国』『サポーター新世紀』(いずれも勁草書房)『ディナモ・フットボール』(みすず書房)がある。 |
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