フットボールの犬 宇都宮徹壱

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help リーダーに追加 RSS WM2006 第6回 スポーツの故郷で語る、中田英の引退とワールドカップ

<<   作成日時 : 2006/07/05 15:49   >>

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 ドイツでの取材も1カ月が過ぎ、ようやく試合がない「休業日」が入るようになった。休みの日は、いろいろとこなさなければならない雑務があるのだが、やっぱり日本からやってきた友人たちと美味いものを食べたい。

 けれども残念なことに、ほとんどの友人たちは決勝トーナメント1回戦が終わったあたりで帰ってしまったようだ。まあ、当然だろう。とはいえ、気がつけばサムライ・ブルーのレプリカを着た同胞が、すっかり街から一掃されてしまった感もあって、ちょっと寂しく思えたりもする。そんなおりもおり、「ヨココム・フットボール道場」というトークイベントの仕掛人である福島さんから「一緒に食事でもどうですか?」と電話をくれた。フランクフルトのレーマー広場で待ち合わせると、隣には素敵なカノジョもいた。7月3日の西日が強い夕暮れ。ちょうど、われらのヒーロー中田英寿が現役引退を発表した日であったことから、まずはその話題について。

「中田の引退ですか? うーん……残念の一言ですね。今回もヒデのレプリカを着て応援していましたから。

 あのブラジル戦が終わった後、倒れこんでいる姿を見て、代表から身を引くのかなっている思いはあったんですけど。今回は黄金世代がピークだったけど、結果を残せませんでしたよね。でもポルトガルも黄金世代のピークは過ぎていたけれど、2年前のユーロでは準優勝したし、今回はフィーゴしか残っていないけど、それでもベスト4まで勝ち上がっていますからね。中田と川口、そしてさらに若い世代の選手たちがミックスされた代表なら、次の大会はかなり期待のもてるものだったと思うんですよ。それだけに残念です」

 現役引退といえば、ちょっとレベルが違うけれど、ジダンもそうだよね。この間のブラジル戦、スタンドで見ていてどうだった?

「ジダンはキレキレでしたね。何というか、ロナウジーニョとの格の違いというものを見せつけられたような気がしました。やっぱりモチベーションの違いでしょうかね。どうも今大会のブラジルは、予想していたよりも大したことない印象を受けました。ブラジルのサポーターにしても、どこか醒めてるというか、たまたま僕の周りがそうだったのかもしれませんけど、あんまり盛り上がっていませんでしたね。むしろフランスのサポーターのほうが、勝ちたいっている気持ちが強かったように思います」

 それにしても今大会は本当に欧州勢が強かったね。下馬評が低かったドイツも、試合を重ねるごとに調子を上げてきているし。

「やっぱりヨーロッパの大会ですから。そこが日韓大会との一番の違いだと思います。
 実はこっちに来る前に、僕たちツール・ド・フランスも見てきたんです。そこであらためて思ったのが、自転車競技にしろフットボールにしろ、ヨーロッパが故郷なんだな、と。こっちでは「フットボールズ・カミング・ホーム(フットボールが母国に帰ってくるぞ)」っていう歌があちこちで歌われていますよね。もともとはユーロ96のイングランドの公式応援ソングだったのが、いつの間にかドイツでも歌われている。やっぱりフットボールのホームというか、本場でワールドカップが行われているんだなって実感が沸いてきますよね。あの曲を聴いていると。

 4年後、2010年に南アに行くかどうかは分からないけど、とにかく今大会は決勝までこっちにいるんで、それまでヨーロッパの大会を愉しもうと思っています」

 そうなのである。つい忘れがちなことなのだが、このドイツ大会が終わると、少なくとも12年後まで、ヨーロッパでワールドカップが開催されることはない。その間、大会そのものがどうなっているか、それさえも今は不透明だ。今大会が「最もワールドカップの楽しさと醍醐味が味わえた大会」とし後世に伝えられる可能性は、決してゼロではないと思う。であるならば、われわれは今、ワールドカップの歴史のまさに転換期に遭遇しているといえるのではないか。

 いずれにせよ、大会も残りわずか。今ごろ日本国内では、オシム・ジャパンやら中田引退やらテポドン発射やらで、すっかりワールドカップは影が薄くなっていると思うけれど、私ももう少しの間、ヨーロッパでのフットボールの祭典を愉しんでおくことにしたい。


写真: 福島成人(34)日本人 (横浜スポーツコミュニケーションズ副理事長・右)
     田邉貴子(26)日本人 (福島さんのカノジョ)


宇都宮徹壱/Tetsuichi Utsunomiya
1966年、東京都出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。誰にも顧みられない鄙びたスタジアムと、当地で飲む酒をこよなく愛する。著書に『幻のサッカー王国』『サポーター新世紀』(いずれも勁草書房)『ディナモ・フットボール』(みすず書房)がある。

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